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労働問題 Q&A

Q 疾病により欠勤中の労働者の解雇について

当社は自動車部品を製造する会社ですが、工員として採用したA君が2か月前から、胃腸の調子が悪いといって欠勤しています。会社としては業務繁忙期にはいりますので、A君を解雇して新たに従業員を採用したいのですが問題はないでしようか。

A.使用者の解雇権の行使が適法かどうかの問題は.次の2点から考える必要があります. ・第1点は労働基準法の解雇制限規定に違反していないかどうか。
・第2点は、解雇権の行使が権利の濫用(労基法条18条の2)に該当しないかどうかです。

  まず最初の1ですが、設問に関係する労働基準法は19条です。そこでは「使用者は労働者が業務上負傷し、又は疾痢にかかり療養のため休業する福間及びその後30日間は、解雇してはならない。」と規定されています。ここで解雇が制限されているのは業務上負傷し、又は疾病にかかった場合です。労働者がが業務と関係の無い私傷病により療養している場合は労基法19条にする解雇の制限の適用はありません。従って設問のA君の場合その胃腸病が業務上のものかどうかにより結論が異なってきます。結局A君の従事していた業務とA君の胃腸病との間に相当因果関係があるかどうかが判断されなくてはなりませんが、業務上の災害による負傷の場合と違って、疾病の場合は因果関係の有無の判断が難しい場合がありますので、そういった場合は医師の意見を参考にして判断する必要があります。

 A君の疾病が業務と関係の無い私傷病の場合は、次に使用者の解雇権の行使が権利の濫用に該当しないかどうか判断する必要があります。使用者の解雇権の行使は労基法に違反しない限り基本的には自由なの
ですが、裁判所がたくさんの裁判例を通じて「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効となる」とする解雇権濫用の法理を確立させてきました。これが労働基準法の改正により、同法18条の2として明文の規定となり、平成16年1月1日より施行されています。具体的には次のような場合は、解雇権の行使は濫用に該当せず、合理的で有効と考えられます。

  (ア)労働者の疾病や能力・適格性の欠如などのため、労務提供が適切になされない場合
  (イ)労働者に業務命令違反や不正行為、暴行、施設毀損などの非違行為があった場合
  (ウ)経営不振による人員削減など経営上の必要性が存する場合

設問のA君は、私傷病の胃腸病で2か月間も欠勤中ということであれば、(ア)に該当しますので、使用者がこれを理由に解雇しても解雇権の行使は濫用とはされず、有効ということになります。

                               

Q勤務時間中のゴルフと懲戒解雇処分

私は私立高校の理事長ですが、当学園の教頭であるXが、生徒を修学旅行に引率して連絡要員としてホテルに待機中、同ホテル経営者と一緒にゴルフに出掛けてしまいました。その事で当学園は、Xから事情聴取をしましたが、×はその中でプレーをした時間を少なく言ったり、プレー代もホテル経営者が出しているこも拘わらず自分で出したとの虚偽の報告をしました。当学園はこのようなXを懲戒解雇することができますか。

A.使用者は労働者の規律違反行為に対し、懲戒処分を行うことができます。よくある懲戒処分は、軽い順で「戒告(始末書を取り将来を戒める)」、「減給」、「停職(3か月以内の期間を定めて職務に就くことを停止し、その間の給与の支払いをしないといったものが多いようです)」、「免職(予告期間を設けず即時にその職を免ずる)」の4つです。この免職が懲戒解雇といわれるもので、労働者の雇用関係を消滅せるだけでなく、通常退職金の不支給の処分も併せて行われます。

この懲戒解雇は、使用者が労働者に対して行う処分の中では、最も重いものですから、労働者が規律違反はした場合であってもこの規律違反の種類・程度、その他事情に照らして、解雇を相当とするような場合でなければ懲戒解雇は許されず。不相当な解雇処分は懲戒権を濫用したものとして無効となります。
従って、懲戒解雇では「相当性」の判断が重要です。

本問と類似のケースで裁判所は、□Xのゴルフプレーは修学旅行の待機中に行われたもので通常の就業時間中に行われたものでないこと。□Xのゴルフプレー中に緊急事態等の発生することなく修学旅行そのものは無事終了していること。□Xが勤務時間中にゴルフプレーをしたのは本件一回だけであること。□Xは勤続20年であるが、本件以外に規律違反行為のないこと等から使用者が戒告・減給あるいは場合によっては停職処分にするのは格別、このゴルフプレー一事をもって労働者を懲戒解雇処分にするのは相当でないと判断しています(大阪地裁平成5.9.29)。また、虚偽報告の点でも「少しでも自己の身を庇おうとすることが人間の情である」として、これを重大視すべきでないとしています。

この判決について、みなさんはいかが思われますか。


Q企業廃止に伴う解雇と解雇権の濫用について

私は、A精機有限会社の旋盤工として勤務していましたが、先日社長B氏から、「不況で経営困難なため廃業する。ついては、従業員全員を解雇する。」との話があり、反対したのですが結局解雇されてしまいました。とこ
ろがB氏は、2週間後に別の場所に工場を借りてA精機有限会社にあった機械を使用して、前と同じ仕事を始めました。会社の名前はC精機工業所となりましたが、従業員は私ともう一人の人を除けば全員前の会社と同じ人で、取引先も同じようです。前に私が会社に労働組合をつくろうとして社長と対立したことがあり、社長は私を辞めさせたがっていたので、このような別の会社をつくったとしか考えられません。このような形での解雇には納得がいかないのですが。

A.使用者の解雇権の行使は、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効となる(労基法18条の2)と規定されています。長引く不況の中、「リストラ」と称して従業員に対する無差別ともいえる解雇を行っているを行っている企業も見受けられ
ますが、裁判所は労基法18条の2の解雇権濫用の規定に基づいて、使用者の解雇権の行使との就労の権利との調整を行っていますので本問の解雇の効力を判断するについても、それが「濫用」にあたるかどうかの検討が不可欠となります。
ところで本問の場合、A社は既に腕章されているため、一見すると廃業に伴う解雇権行使の濫用に該当しないともいえそうです。しかしながら本問では、A社の廃業とC精機工業所の新設を詳細に検討してみますと、次のような事実があることが分かりました。

(1)従業員は本問の相談者ともう一人の人が抜け、新人が一人入ったものの、他の従業員には全く変更がないこと。
(2)A社の営業及び会計事務は、社長のBとその妻が行っていたが、C精機工業所でも全く同様であること。
(3)C精機工業所の主要な受注先及び仕入れ先は、その殆どをA社から引き継いでいること。
(4)C精機工業所で使用している機械についても、A社のものであること。
(5)A社社長Bと相談者は組合の設立をめぐって不仲であり、Bは常々相談者を解雇したいとの意向を漏らしていたこと。

以上の事実からすると、BがA社の事業を廃止したのは、相談者を追い出すためであり、廃業とは名ばかりであるといえます。
そして、このような提案は著しく不正義であり、このような場合は廃業そのものが無効として効力を否定され、その結果従業員に対する解雇の意思表示も解雇権の濫用にあたって無効とされるものと考えられます。

事業の廃止とその事業を引き継いで新会社が設立されたり、別の会社に事業が譲渡されるケースはたくさんありますが、設問のような特定の労働者の排除を目的として行われる場合には、労働者としてはその解雇の効力を争う余地がありますので、一刻も早く専門家に相談すると良いと思います。


Q行方不明となった労働者を解雇するには

当社の従業員のA君が無断欠勤したので、A君のアパートを訪ねたところ、アパートはもぬけの殼で、郵便受にはサラ金からの督促状が山のようにたまっていました。それから3か月経ちますが、A君の所在は不明のままです。当社としてもこのままにしておけないのですが、A君との雇用関係を終了させるにはどうしたらよいでしょうか。

A.どうもA君はサラ金に多額の借金があって支払いきれなくなり、夜逃げをしてしまったようですね、最近では、街のいたる所に無人で借り入れの手続きができる機械が設置してあって、極めて簡単にお金を借りることができるようです。ついついお金を借り過ぎる人が多いようですが、借りる側も慎重に対応しないといけませんね。

 さて、設問のケースですが、会社が従業員との雇用関係を終了させる手続の一つとしては、解雇があります。これは、会社の一方的な意思表示によって従業員との雇用関係を終了させるものです。ただし、「意思表示」ですので、これをA君に伝えなければ効力がありません。民法97条が「隔地者に対する意思表はにその通知するが相手方に到達した時から効力を生ずる。」と規定しているからです。従って、会社からA君に文書や口頭で通知するのが原則ですが、A君に同居の親族などがいれば、その親族に通知するのでも構いません。

でも、設問のA君は行方不明で同居者もいませんから、このままでは解雇の通知ができません。

A君のような行方不明者の人に通知する方法としては、「公示による意思表示」という制度があります。これは会社から裁判所に申し立てをし、これを受けた裁判所が通知書を掲示板に掲示するとともに、掲示した旨を官報などで公告します。官報の公告後2週間を経過すると、相手方に意思表示が到達したものとみなされます。随分面倒な手続きですね。設問のケースの処理としては、余り実際的ではないような気もします。

そこで次に考えられるのは、A君を依願退職扱いにするということです。A君から退職したいという明確な意思表示があったわけではありませんが、A君が行方不明となった事情や行方不明の期間等から誰がみても会社に出社する意思が無いと考えられる時は、A君が無断欠勤し、所在をくらませたことをもって、A君から退職の申し出があったとみなす(これを黙示の意思表示といいます。)ことができます。

従って、設問では退職金の支払といった問題が無ければ、解雇でなく依願退職として扱うのが簡便な方法と思います。

Q病気休職と解雇について

当社は電気部品の製造メーカーです。当社の従業員で現場の製造ラインで働くAさんが、病気で休職した後に復職してきましたが、まだ回復が十分でな¥く、休職前と同じように働くことができません。それで、いつも同僚がAさんの手助けをしています。
このままでは、他の従業員の負担も重く、業務に支障がでますので、Aさんを解雇したいのですが可能でしょうか?

A.労働者が病気のために会社を休職する場合、それが業務上の負傷・疾病による場合と業務とは無関係の私病による場合とがあります。前者は労働災害の問題であり、法律も使用者に対し「労働者が業務上の負傷・疾病で療養のために休養する期間及びその後30日間は、その労働者を解雇してはならない」(労基法19条)と規定して解雇を制限(ただし、使用者が労基法81条に定める打切補償を支払った場合などは例外で、この制限はなくなります)しています。

従って、Aさんの病気休職が業務上のものである場合、打切補償のある場合などを除いて、Aさんは十分に回復するまで休職できますし、会社はこの間及び回復して出社後30日間は解雇ができません。

次にAさんの病気が私病である場合はどうでしょうか。通常、会社の就業規則などで、私病の場合の休職に関する定めがあれば、それに従って休職し、治療に専念することになります。勿論この間は会社は解雇できません。問題となるのは、このような休職制度が無い場合や、あっても休職期間が満了しても病気が回復しなかった場合です。

私病の場合は、法律は使用者による解雇を制限する旨の規程を設けていませんが、これまでの裁判例で解雇には「やむを得ない事由」が必要とされています。労働者が私病・労務の提供を適切にすることができない場合は、この「やむを得ない事由」にあたると考えられます。

ただし、解雇が労働者の生活に与える影響が極めて大きいことから、病気回復の程度・見込み・段階的就労の可否・配慮転換も含めた作業内容・方法の工夫で就労可能か、このような措置に伴う負担に会社が堪え得るか等々の事情を総合的に考慮して、解雇か「やむを得ない」かどうか判断されます。

従って、設問の場合でも直ちに解雇というのではなく、回復の見込みや他の事務労働への配置転換の可否、これによる・社の負担等を十分に検討する必要があります。

Q 就業時間外のアルバイトについて

私は、A社の事務職員として毎日午前9時から、午後5時まで働いています。先月から友人に誘われてスナックで接客のアルバイトを始めました。スナックでの勤務は毎週月、水、金曜の午後8時から午前1時までです。ところがこのことが会社に知れてしまい、会社から懲戒解雇処分にするといわれました。
この処分は仕方がないのでしようか。   

A.勤務時間中に他社でアルバイトをするのはもってのほかとして、始業時刻前や終業時刻後といった勤務時間外についても、会社がその就業規則で「他社で雇用されること」を禁止し、これに違反した場合には懲戒解雇を含む懲戒処分を行う旨、定めている場合が多くあります。ところで、勤務時間外は本来労働者が使用者の指示や命令を離れて自由に使える時間ですから、このような勤務時間外まで会社が就業規則で労働者を拘束することができるのかが問題となります。

この点については、労働基準法などの労働法規は明文の定めをおいていませんので、過去の裁判例から判断の基準を読みとる必要があります。裁判例は、労働者が誠実に労務を提供するためには勤務時間外に適度な休養を取る必要があること、兼業の内容によっては会社の経営秩序を害することもあり得ることなどの理由から、会社が兼業を禁止し、違反行為を処罰することを就業規則で定めることの有効性を一般的に認めています。建設会社の事務職員が会社に無断で就業時間終了後の午後6時から午前0時までキャバレーの会計係として勤務したという設問と同様のケースで、裁判所は兼職をした労働者に対する懲戒解雇処分を有効と判断しています。(小川建設事件)。件)。他方で、タクシー運転手が毎日就業時刻前に2時間ほど新聞配達に従事したケースでは「いまだ会社の企業秩序に影響を及ぼしたり、労務提供に格別の支障を生ぜしめるものではない」として懲戒解雇事由である兼職禁止城向の違反には該当しないと判断したものもあります。

従って、それぞれのケース毎に会社の業務内容、労働者の地位、その労働者が従事していた業務の内容、兼業した業務の内容等を総合的に見ていく必要があります。

いずれにしても、懲戒解雇処分は労働者に対する懲戒処分としては最も重いあり、労働者に及ぼす影響も極めて大きいものがありますから、労働者の就業規則違反行為に対して懲戒解雇をもって処分することが相当であるか、これまでの同種の違反者の有無、それらの違反者に対する処分と今回の処分との均衡がとれているかなどについて会社としても十分に検討し、慎重な手続きをとる必要があります。


Q通勤途中のけがで休業中の従業員の解雇について

私は健康器具の製造・販売を行っているA株式会社の代表取締役です。従業員は10名でそのうち8名が製造の仕事に従事しています。先日製造部門のB社員が自宅から当社工場に単車で向かう途中に交通事故にあってしまい、腕や足を骨折する大けがを負ってしまいました。
Bさんは入院だけでも3か月間を要する見込みであり、当社としてはBさんを解雇して新たな社員を雇用しようと考えているのですが、解雇に問題はないでしようか。Bさんは労災保険を受給しており、労災保険受給中の従業員は解雇してはいけないという人もいるのですが。


A.解雇の効力を考えるには、次の2点を検討する必要があります。1点目は労働基準法19条第1項の解雇制限規定に違反していないかどうか、2点目は同法13条の2の解雇権の行使が民法上の権利濫用に該当しないかどうかです。

まずは労働基準法19条1項を検討してみましょう。同法第19条第1項では、「使用者は労働者が業務上負傷し、療養のために休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。」。この条項は労働者が「業務
上」負傷した場合の解雇を制限しています。そして「業務上」の負傷とは、労働者が業務を遂行中(労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあるときを意味します)に、業務に起囚(業務と負傷との間に経験則上相当な因果関係があること)して負傷した場合をいいます。
本件は、労働者が通勤途中に交通事故にあったものですが、通勤途中は未だ事業主の支配下にあるとはいえないため、通勤途中の事故による負傷が業務上の負傷には該当しないと考えられます。ただし、事業主が通勤専用のマイクロバス等の交通期間を提供していた場合や突発的事故による早出・休日出勤などの場合は別で、これらは通勤途中といえども事業主の支配下にあたると考えられ、「業務上」の負傷と認定される場合があります。
通勤途中の災害にも、通勤災害保護制度により、労災保険法により給付がなされますが、これは通勤が労務提供に不可欠でかつ必然的に危険を伴うことから、労災補償とは別の特別の補償をしているもので、労働災害とは区別されます。
従って、本件では、Bさんを解雇することは労基法19条1項には違反しません。

次に同法18条の2の解雇権の行使が識別濫用に該当するかの点ですが、本件は労働者が負傷したため、労務の提供が適切になされない場合であり、このような場合は使用者の解雇権の行使も客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当と考えられますので、権利濫用には該当しないものと考えられます。

以上から、いずれの点においてもA社の解雇は有効と考えられます。

Q退職後に不正事実が判明した場合、遡って懲戒解雇するとともに支給済みの退職金の返還を求めることができるか。

私は家電製品の販売を行っているA社の人事部長をしています。先般、販売部長のY氏が家庭の事情を理由に突然退職の申し出をしてきましたが、当社はこれを承諾するとともに、就業規則に従って退職金の支給をしました。ところが、最近、Y氏が売上金を多数回にわたって、着服横領し、その総額が約500万円にも達していることが判明しました。当社としては、このようなY氏を許すことができません。Y氏を遡って、懲戒解雇にするとともに、支給済みの退職金の返還をさせたいと考えています。このような処置は可能でしょうか。


A.
Y氏は販売部長という責任ある地位にありながら、多数回にわたって総額500万円もの金銭を横領したというのですから、これがA社の就業規則に定める懲戒解雇事由にあたることは明らかであり、また永年の会社に対する功績を台無しにする行為として退職金の不支給の処分を受けてもやむを得ないところと考えられます。
従って、Y氏が在職中であれば、懲戒解雇・退職金の不支給の処分がされる事案です。問題は、Y氏が既に退職(労働契約を使用者と労働者が合意で解約すこと、これにより労働契約は終了する。)している点です。この点、懲戒解雇を含めて解雇とは、労働契約を将来に向かって解除する使用者側の一方的な意思表示のことを言いますから、当然、解雇するには労働契約が有効に存在することが前提となります。ところがY氏の退職により、労働契約は終了していますから、解雇のしようがありません。また退職後は、現に労働者で
あるものに適用される就業規則を適用する余地もないと考えられますので、結局、遡って懲戒解雇することはできないという結論になります。割り切れない思いも残りますが、やむ終えないところです。
そうなると、会社としてはせめて、退職金を取り戻したいと考えるところですが、これも簡単ではありません。
みなさんの会社の就業規則を確認してみて下さい。就業規則が「懲戒解雇に該当する事由があるものには退職金は支給しない」と規定されていれば、Y氏は本来退職金の支給を受ける権利がなかったにも拘わらず、これを受け取っていますので、法律上の理由無く利益を得ているとのことで、A社はその返還を求めることができます。(不当利得返還請求)といいます。
ところが、就業規則の中には懲戒解雇された者には、退職金を支給しない」としているものもあります。この場合は、懲戒解雇が行われることが退職金不支給の前提となっていますので、本来の事例のように、もはや懲戒解雇を行えないときに、この規則に基づいて退職金の返還を求めることができるか問題となります。この点について過去の裁判例では退職金請求権が雇用契約から生ずる労働者の基本的な権利であることから、
就業規則が「懲戒解雇された者には、退職金を支給しない」と規定されているだけでは、退職後に懲戒解雇れないものがあり、注意が必要です。(広島地裁平成2年7月27日判決)。

就業規則の定め方のわずかな違いですが、本件のような事例では結論が正反対になるおそれがあります。就業規則を見直すととともに、退職の際に将来の不正の発覚に備えた特約をしておくのも良い方策だと思います。


Q退職後の同業者他社への就職・自営について

私は高校卒業後20年間マリンスポーツ用品の販売会社であるA社の管理職として勤務してきました。先般、商品の販売方法をめぐって社長と激しく意見が対立したことから、A社を退職し、在職中に得たノウハウを生かして、A社と同じマリンスポーツ用品の販売会社を自営しようと考えています。社長は、同業他社を自営するなら損害賠償を請求する、退職金を支給しないと言って、強く反対しています。私は退職後に同業他社を自営できないのでしょうか。

A.労働者には、退職選択の自由がありますから、退職後にどのような職業に就くかは労働者本人が自由に決定でき、在職中に得たノウハウを生かすために、退職後に同同業他社へ就職(あるいは自営)するのは自由にできるとも考えられます。他方で使用者としては、労働者が営業上の秘密関わる仕事に従事していたような場合、退職後にこの営業上秘密を利用されて同業を営まれると、大きな損害を被るおそれもあります。従って、設問のケースは、労働者の職業選択の自由と使用者の経営・営業権をどのようにして調整するかがポイントとなります。

このような退職後の労働者の競業避止業務については、就業規則や使用者と労働者との契約で明確に禁止している場合と、このような明文の定めが無い場合とがあります。

明文の定めが無い場合は、原則として労働者は退職後に競業行為(同業を営むこと)を自由に行うことができます。ただし、雇用関係は使用者と労働者の信頼関係に基づいていますので、労働者が在職中煮えた顧客データ等を利用して、それらの顧客に同一の商品を廉価に販売するなど、不正の方法で利益を得ることは、信頼関係に違反する行為をして明文の規定が無くても禁じられます。

では、就業規則で競業行為を禁止した場合はどうでしょうか。 
この場合は、禁止される行為の内容や期間が問題となります。元々労働者は原則として自由に競業行為を行うことができるものを、使用者の利益確保のために、競業避止義務を負担するわけですから、使用者の確保する利益に照らし、競業行為の禁止の内容が必要最小限度にとどまっており、かつ十分な代償措置をとっていることが要件となります。

具体的には、労働者の退職時の地位、禁止される競業行為の内容・範囲の広狭、期間の長短、代償措置として退職金等においてどのような優遇措置が取られているのか等が問題となります。これらの事情にお照らして、就業禁止の義務が過大と考えられる時は、その部分は無効となります。


戒解雇を行えないときに、この規則に基づいて退職金に返還を求めることができるか問題となります。この点について、過去の裁判例では退職金請求権が雇用契約から生ずる労働者の基本的な権利であることから、自由が発覚しても、もはや懲戒解雇はできず、懲戒解雇されない以上、退職金不支給の商業規則は適用されないとしたものがあり注意が必要です。(広島地裁平成2年7月27日判決)。
就業規則の定め方のわずかな違いですが、本件のような事例では結論が正反対になるおそれがあります。就業規則を見直すとともに、退職の際に将来の不正の発覚に備えた特約をしておくのも良い方策だと思います。



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